”愛情”

ここは北の港であろう 夜霧に咽ぶ女の表情が変わった瞬間 男はお玉で片方の湯煙の寸胴鍋から鶏ガラスープを女の待つラーメン丼ぶりへ注いだ そして男は湯切り笊へ握り換え湯気の立ち上る寸胴鍋に突っ込んで茹で上がった麺をすくい上げるとポンポンと跳ね上げ一人前分の麺を女の待つラーメン丼ぶりの熱々のスープの中へと入れた 男は優しく菜箸で麺を整えると女も菜箸を取り支那竹チャーシュー刻みネギ鳴戸を乗せると男を見つめた 男はチラッと女を見たが腰に片手を当てて首筋をもう片手で揉んでいた 女はラーメンをカウンターへと運んだ 行き場の無い緊張感が洞窟を支配していた

 

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