”濡雑巾”

御茶ノ水マロニエ通りの喫茶FINEの鉄階段をカランコロン下駄を鳴らして入って来たのは羽織袴にカンカン帽子の画板を小脇に抱えた男だった サクランボをブラブラ揺らす女優のテーブルに腰掛けると女優は画板を指差してなにか文句を言う様子であった 画板を広げて一枚の紙を取り出すと女優に見せたのは男が虚空を掴んで白目むきだしのデッサンであった ちらりと目に入ったその絵を見て鮫のような紳士は小さく叫んだ あれえ?今さっき買った絵にそっくりの構図だった あのひと浮世絵師の桃川光重じゃない?とつぶやく銀座の高級クラブ”ドンブラコ”のママさんこと並木桃子であった

22/06/12 06:47:59
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