”ノアフルーツ”
カランコロン キッチンクルミの入り口のドアのカウベルが鳴るとワインカラーのニットのチョッキを着た中年の大男が入ってくるなりキッチンカウンターのコックらが おはようございますと言った 夜の11時過ぎだというのにおはようございますなんてのは水商売が世間の反対側を意味していた そのワインカラーのニットのチョッキ中年大男は貫禄たっぷりにレジスターの前に入りチン!とレジを開けてロール紙の伝票を抜き取った レジスターは最新式の型でロール紙に印字された数字とアルファベットが売上の集計を記している便利な機能であった マスターおはようございますとマネージャーの黒田が恐る恐る近寄って挨拶をした マスターなる呼称のワインカラーのニットのチョッキ中年大男はキッチンクルミのママさんの旦那で経営者であった 神楽坂や牛込町に多くの不動産を持ちワインの輸入販売業も営む事業家であった アスパラ上がりました!とカウンターキッチンから声がかかるとホール係の黒田は愛想たっぷりにアスパラサラダおまちどうさまでしたと清のテーブルへと配膳するのだった