”ラーメン”

銀座日劇ホールにクリスマスツリー　色とりどりに飾られた電飾を見物に老若男女で溢れかえる師走の東京　携帯ラジオの放送を聞きながら佃島の小さなドックにはレインボー丸が引き上げられて船底にへばりついた貝殻をスクレイパーでざくざくと音を立てて掃除する舵木弦三へ　オーイ！お客さんですわ！と森永丸の船長の漕ぐ渡し舟に鮫島貿易の社長がソフト帽を振りながらやって来た　掃除ですかいな？この貝殻は食べられまへんのだすか？味噌汁にでも入れたら旨そうやおまへんか？とグレーのウールの背広の背中に背負ってきた布団風呂敷をドスンとレインボー丸の船底から剥がれ落ちた貝殻の上に下ろした　船長！ご苦労さんでした　と鮫島貿易の社長はかがんで風呂敷包みをほどくと整然とレンガよろしく５千円札の束がずらりと並んでいた　その額２００万円ラーメン一杯２０円の時代である　マハロ！レインボー丸の船長はハワイイ語で礼を言うのであった